BPSD(認知症の行動・心理症状)とは?介護職員が知っておきたい原因と対応の基本

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認知症ケアの現場では、「家に帰りたい」と繰り返し訴える、入浴を嫌がる、強い口調で話す、落ち着かない様子が見られるなど、対応に迷う場面があります。

こうした言動には、本人の不安や体調、生活環境、これまでの生活習慣などが関係している場合があります。言動が生じた背景を確認することが、本人に合った支援を考える手がかりになります。

BPSDとは、認知症に伴う行動・心理症状のことです。この記事では、介護職員が知っておきたいBPSDの基本的な知識と、日々のケアでの観察、介護記録、申し送り、医療職との連携について解説します。

この記事で分かること

  • BPSDの意味と認知症の中核症状との違い
  • 帰宅の訴えや介護拒否などの背景を確認する視点
  • 介護職員が日々のケアで観察したいポイント
  • BPSDに関する介護記録・申し送りの具体例
  • 医療職や管理者への報告が必要になる場面

1.BPSDとは?認知症の行動・心理症状の基本

BPSDは、Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia の略で、日本語では「認知症の行動・心理症状」と呼ばれます。

不安、抑うつ、興奮、幻覚、妄想などの心理症状や、攻撃的な言動、落ち着かず歩き回るといった行動面の症状が含まれます。

認知症には、記憶障害や見当識障害など、認知機能の障害として現れる中核症状があります。

一方、BPSDの現れ方には、認知機能の変化に加え、身体状態、心理状態、生活環境、周囲の人との関係など、さまざまな要因が影響します。

BPSDの種類や程度には個人差があり、すべての認知症の人に同じ症状が現れるわけではありません。

BPSDとの関連を確認したい主な言動

現場で見られる言動確認したい背景
「帰りたい」と繰り返す今いる場所への不安、家族への思い、これまでの生活習慣
入浴を嫌がる痛み、寒さ、羞恥心、説明の分かりにくさ
強い口調で訴える体調不良、疲労、聞こえにくさ、急かされた感覚
落ち着かず歩き回るトイレの必要性、移動の目的、環境への戸惑い
同じことを何度も尋ねる記憶の保持の難しさ、不安、予定の見通し

※これらの言動が、すべてBPSDに該当するわけではありません。認知症の中核症状、身体状態、環境などの影響も考慮して、個別に状況を確認する必要があります。

介護職員に求められるのは、普段の様子との違いに気づき、本人が何を伝えようとしているのかを確認する姿勢です。

2.「問題行動」と決めつけない認知症ケアの見方

認知症ケアでは、以前から「問題行動」という言葉が使われることがありました。

しかし、この表現だけで本人の言動を捉えると、その背景にある不安や生活上の困りごとを見落とす可能性があります。

例えば、夕方になると「家に帰って夕飯を作らないと」と繰り返す利用者A様がいたとします。

A様が長年家族の食事を用意してきた場合、夕方という時間帯と、これまで担ってきた家事の役割が関係している可能性があります。

このような場面では、本人の話に耳を傾け、これまでの生活歴や日課、現在の不安を確認することが支援の手がかりになります。

BPSDの背景を考える5つの視点

  • 身体面:痛み、便秘、発熱、睡眠不足、脱水、服薬状況など
  • 心理面:不安、寂しさ、混乱、今後の見通しの持ちにくさ
  • 環境面:騒音、照明、人の出入り、場所の分かりにくさ
  • 関わり方:声の大きさ、説明の仕方、話す速さ、返答を待つ時間
  • 生活歴:仕事、家族関係、生活習慣、本人が大切にしてきた役割

これらの要因は、複数重なっている場合もあります。

また、本人が「帰りたい」と話している場合、その言葉には家族への思いや現在の不安、本人なりの目的などが含まれていることがあります。

本人の希望を確認し、今いる場所で安心して過ごせるための支援を考えます。外出を希望する場合も、本人の意思と安全面を踏まえ、必要に応じて関係職員と相談します。

本人の言葉を丁寧に受け止めることが、背景を理解するための出発点になります。

3.介護職員が日々のケアで観察したいポイント

BPSDの背景を理解するうえで、介護職員の日々の観察は重要な役割を持っています。

食事、排泄、入浴、移動、就寝前など、生活のさまざまな場面で本人と関わるため、普段との違いに気づく機会があります。

例えば、これまで落ち着いて入浴していた人が、急に浴室へ入ることを嫌がるようになった場合です。

介護職員は、本人の身体状態や浴室の環境、説明の仕方、介助の進め方などに変化がなかったかを確認します。

入浴を嫌がった場面だけを取り上げると、本人が何に困っているのか分からない場合があります。入浴前後の様子や、普段と異なる点も合わせて確認することが大切です。

生活場面ごとの観察ポイント

生活場面観察・確認したいこと
食事食欲、食べ始めるまでの様子、むせ、周囲の音への反応
入浴入浴前の説明、寒さや痛み、羞恥心、介助を受ける際の反応
排泄トイレの場所の理解、尿意・便意、便秘、誘導時の様子
移動歩き始める時間帯、移動の目的、疲労、転倒につながる状況
夕方・夜間帰宅の訴え、睡眠状況、不安の程度、周囲の環境

観察では、言動が見られた時の状況とともに、本人が安心して過ごせた場面にも目を向けます。

また、介護職員が気づいた内容を看護職や管理者などと共有することで、身体状態の確認や支援方法の見直しにつなげられます。

ただし、急に言動や意識の状態が変化した場合には、身体疾患、薬剤の影響、せん妄などの可能性も考えられます。認知症による変化と決めつけず、速やかに医療職へ報告することが重要です。

4.BPSDの介護記録と申し送り|具体的な文例

BPSDに関連する言動が見られた場合、介護記録には、本人の様子と職員の対応、その後の変化を具体的に残すことが大切です。

「不穏あり」「入浴拒否あり」といった短い記述だけでは、次の勤務者に状況が十分伝わらないことがあります。

記録例|夕方に帰宅を訴えた場面

【状況・本人の言動】

16時頃、利用者A様がフロア内を歩きながら「家に帰って夕飯を作らないと」と繰り返し話される。玄関方向を指さし、「もう帰る時間よ」と話される。

【職員の対応】

職員がA様の話を伺い、「夕飯の準備が気になるのですね」と声をかける。A様より「家族が待っているから」と返答あり。着席して話を続けることを提案すると、A様から了承があり、フロア内の椅子へ移動される。

【本人の反応・その後の状況】

着席後も夕食について話されていたが、職員との会話中に笑顔が見られる。16時15分頃からフロアで過ごされる。

【今後の確認事項】

夕方に同様の訴えが続いているため、担当職員間で情報を共有し、夕方の過ごし方や生活歴について確認する。

この記録では、本人の発言、職員が行った対応、その後の様子を分けて記載しています。

本人の心理状態を推測する場合も、表情や発言など、判断の手がかりとなる事実を合わせて残すと、次の支援に役立ちます。

申し送り例|次の勤務者への情報共有

利用者A様は16時頃、「夕飯を作らないと」と話され、玄関方向へ歩いて行かれました。職員が話を伺い、A様の了承を得て椅子へ移動していただくと、その後はフロアで過ごされました。夕方に同じような訴えが続いているため、次の勤務でも様子を確認してください。

申し送りでは、次の勤務者が本人の状況を理解し、支援を継続できるように伝えます。

また、家族から生活歴について情報を得る場合には、事業所内での役割分担や連絡方法を確認したうえで行います。

ここで示した記録例と申し送り例は、実務上の参考文例です。各サービスに適用される記録上の義務や、事業所で定められた記録様式とは区別して活用してください。

5.BPSDへの対応で医療職・管理者と連携する場面

認知症の人の言動に変化が見られた場合、生活環境や関わり方を確認するとともに、身体状態にも注意を払います。

特に、普段とは大きく異なる変化や、本人・周囲の安全に関わる状態が見られる場合には、速やかな報告・連携が必要です。

早急な確認や報告が必要な状態

  • 急に反応が鈍くなり、呼びかけへの応答が普段と異なる
  • 発熱、強い痛み、脱水などが疑われる
  • 急激に混乱が強まり、せん妄などが疑われる
  • 強い恐怖や不安が続き、本人が苦痛を訴えている
  • 転倒、自傷、他者への危害など、差し迫った危険がある

意識障害や急激な状態悪化が見られる場合には、通常の申し送りまで待たず、事業所の緊急時対応手順に沿って直ちに対応します。

BPSDへの対応と薬物療法の考え方

2025年に第3版が公表された「かかりつけ医・認知症サポート医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン」では、BPSDの背景にある身体的・心理的・環境的要因を確認し、非薬物的な対応を検討することが基本となっています。

非薬物的な対応には、本人の生活環境の調整、安心できる関わり方の検討、生活リズムの見直しなどがあります。

薬物療法については、症状の程度、本人の苦痛、治療に伴うリスクなどを踏まえて、医師が慎重に判断します。切迫した危険や緊急性が高い場合は、非薬物的対応を続けるだけで判断を先送りせず、速やかな医療的評価が必要です。

介護職員は、生活場面で見られた変化や、対応後の反応などを具体的に記録し、医療職へ共有します。服薬後に普段と異なる様子が見られた場合にも、事業所の手順に従って報告します。

介護職員が日々の生活場面から得た情報は、医療職が本人の状態を評価する際にも役立ちます。

6.認知症基本法と「新しい認知症観」を日々のケアに活かす

2024年1月1日に施行された「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」は、認知症の人が尊厳を保持し、希望を持って暮らすことができる共生社会の実現を目指す法律です。

また、2024年12月3日に閣議決定された「認知症施策推進基本計画」では、「新しい認知症観」が示されています。

そこでは、認知症になってからも、一人ひとりにできることや、やりたいことがあり、住み慣れた地域で希望を持って自分らしく暮らし続けられるという考え方が重視されています。

介護現場でも、本人の意思や生活歴を大切にする姿勢が求められます。

入浴を嫌がる人には、どのようなことが負担になっているのかを確認する。帰宅を繰り返し訴える人には、その思いや生活習慣を理解するために話を伺う。

こうした日々の関わりを通じて、本人が安心して過ごせる支援を検討します。

なお、認知症基本法に基づく施策推進の規定と、個々の介護サービス事業所に適用される運営基準や加算要件は、それぞれ位置づけが異なります。

本記事で紹介した観察の視点や記録文例は、介護職員が日々の支援に活かすための実務上の参考として整理しています。


まとめ|BPSDを理解し、本人に合った認知症ケアへ

BPSDは、認知症に伴う行動・心理症状です。その現れ方には、本人の身体状態、不安、生活環境、生活歴、周囲の関わり方などが影響します。

介護職員が日々のケアで意識したいことは、次の3点です。

① 言動が見られた背景を確認する

本人の言葉や表情、身体状態、生活環境などを把握し、困りごとの手がかりを探します。

② 対応と本人の反応を具体的に記録する

いつ、どのような場面で何が起こり、職員がどう対応し、本人の様子がどう変化したのかを残します。

③ 気づいた情報をチームで共有する

職員間で対応方法や本人の変化を共有し、必要に応じて看護職や医師などと連携します。

BPSDへの理解を深めることは、本人の尊厳を守り、安心して生活できる環境を整えることにつながります。

日々の観察と記録を積み重ね、本人の意思や生活習慣を大切にした認知症ケアにつなげていきましょう。


参考・出典


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梅沢 佳裕

ベラガイア17 人材開発総合研究所 代表
最新福祉情報サイト【介護キャンパス】主宰
梅沢 佳裕

社会福祉士・介護支援専門員・アンガーマネジメントファシリテーター他。
東京都を拠点に、介護・福祉事業所の人材育成、管理職研修、法定研修、制度改正対応、BCP、カスタマーハラスメント対策などをテーマに、研修講師・コンサルティング・執筆活動を行っています。

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公的資料や最新通知を確認しながら、制度と現場実践をつなぐ分かりやすい解説を心がけています。

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