皆さま、こんにちは
ベラガイア17 の梅沢です。
1.はじめに~「なぜこんな理不尽が?」の正体を探る
介護の現場で働く職員から、こんな声をよく耳にします。
「契約で決まっていること以外をしつこく求められる…」
「“やって当然”という態度で怒鳴られた…」
「こちらの説明を全く聞いてもらえない…」
これらの背景には、「介護サービス=お客様サービス」という誤解や、制度への理解不足、そして介護職の“立場の弱さ”が存在しています。
今回の記事では、介護現場でカスハラが起きやすい「構造的な要因」を、事例と共に丁寧にひも解きます。
2.カスハラ事例|理不尽なクレームの背景にある“お客様意識”
-登場人物-
●ヘルパー:中村さん(40代、デイサービス職員)
●利用者:Bさん(要介護1・男性・80代)
●利用者の娘:Cさん(50代・同居)
(昼食のあと、Cさんがフロアに現れる)
Cさん:「あの、中村さん。ちょっといいですか?」
中村さん:「はい、どうされましたか?」
Cさん:「父がね、昨日も帰ってきて“おかずが冷たかった”って言ってたのよ。温かいごはんも出せないの?食事代払ってるのに」
中村さん:「申し訳ありません。昨日は厨房の加熱トラブルがありまして、すぐに復旧対応はしたのですが…」
Cさん:「こっちは高いお金払ってるんですよ?もっと気を使ってもらえません?」
このように、「介護サービス=お客様へのサービス」という思い込みが、現場の職員に強い圧力となってのしかかります。
“お客様は神様”という日本社会に根強い風潮が、福祉サービスの本来の趣旨をゆがめているのです。
3.介護サービスと「お客様意識」のすれ違い
1)制度の仕組みと「金を払っているのだから」の誤解
介護保険サービスは、原則として利用者1割(または2~3割)負担で利用できる「公的福祉サービス」です。
しかし、利用者や家族の中には、
- 「自費だから全部やってもらって当然」
- 「金を払っている=指示できる立場」
- 「細かいことは施設や職員がすべて調整するべき」
といった“お客様意識”を抱いている人も少なくありません。
2)契約内容の理解不足
例えば、訪問介護では「できること・できないこと」が厳密に定められています。
しかし、それを理解していない家族からは、
- 「ちょっと庭も掃除してくれない?」
- 「孫を保育園に迎えに行って」
- 「銀行にも一緒に行って手続きして」
などの、制度外の要求が日常的に投げかけられています。これらは、立派なカスハラに該当することもあります。
3)介護職の“立場の弱さ”がつけこまれる要因に
介護職員は、日常的に「ありがとう」「助かりました」と言ってもらえる反面、
「やって当然」と見なされがちで、感謝が薄れやすい職種でもあります。
介護職の声
「怒鳴られても、笑顔で対応しろと言われる」
「強く言い返したら“失礼だ”とクレームになる」
「家族に誤解されても、こちらからは説明しづらい雰囲気がある」
こうした“弱い立場”に置かれやすい構造も、理不尽な要求や暴言の温床となっています。
4.カスハラが起きやすい3つの背景要因

「仕組みで守る」ことが予防につながる
理不尽なクレームや暴言を完全に防ぐことは難しいですが、「説明」「共有」「仕組み化」の3点を意識することで、大幅にリスクを減らせます。
① 初回面談で契約内容を丁寧に説明
- 「訪問介護では掃除や調理は行えますが、庭仕事はできません」
- 「同行支援は制度上、医師の指示が必要です」
といった具体的な線引きを、最初に丁寧に伝えておくことが重要です。
② “サービスの枠”を見える化する
契約書・サービス計画書を「その場で見せる」ことも有効です。
また、職員用マニュアルや「できること・できないこと」の早見表を活用し、現場で迷わない対応を徹底することもポイントです。
③ 苦情の内容はチームで共有する
たとえ小さな苦情でも、「どの職員が・どのような場面で・何を言われたか」を記録しておきましょう。
他の職員が同じ利用者を担当する際にも、対応の質が上がり、防衛線を張ることができます。
5.まとめ|「構造的な誤解」がカスハラを生んでいる
介護職に向けられる理不尽なクレームや暴言の多くは、個人の資質だけでなく、「制度の誤解」「お客様意識のズレ」「職員の立場の弱さ」といった構造的な背景に根差しています。
- 「金を払っているから何でもやってくれる」という誤解を正す
- 契約・制度の説明は、最初から丁寧に・文書で
- 苦情は個人で抱えず、チームで共有・記録すること
これらを意識することで、介護現場の安心感はぐっと高まります。