024年度の介護報酬改定では、すべての介護サービス事業所に業務継続計画(BCP)の策定と訓練・研修の実施が義務づけられました。
しかし、多くの現場では「年に1回訓練をやっただけ」「BCPは管理者だけが見ているもの」になっていないでしょうか?
介護BCPの真の目的は、計画を“動かせる”状態にしておくことです。今回は、自然災害BCPを机上の計画に終わらせず、日常業務や施設内研修に落とし込み、継続的に改善していくための方法を解説します。
1.なぜ介護施設の自然災害BCP訓練は“やりっぱなし”が危険なのか
「介護BCP訓練=一度やれば十分」という誤解は、極めて危険です。災害時に求められるのは、職員一人ひとりが即座に判断・行動できる力です。
BCP訓練をやりっぱなしにすると、以下のようなリスクが生じます。
- 同じ内容の訓練を繰り返して形骸化
- 職員の参加率が低く、当事者意識が芽生えない
- 新人・非常勤職員への浸透不足
- 訓練の気づきがBCPやマニュアルに反映されない
BCPは“育てていく計画”です。訓練→研修→改善→実装というサイクルを日常的に回すことが、真の災害対応力につながります。
2.介護BCPを現場に根づかせる施設内研修の進め方とテーマ例
新任研修・年次研修に組み込む自然災害BCP教育
BCPを職員全体に根づかせるには、施設内研修に組み込むことが最も効果的です。
- 新任職員研修:災害時の基本行動、初動マニュアルの読み解き
- 定期研修(年2回など):地震・停電・断水などの事例別ケーススタディ
- リーダー層向け:指揮命令系統やファシリテーター研修、情報伝達訓練
研修テーマの例:
- 夜間に地震が発生した際の介助と避難の手順
- 停電下での食事提供・トイレ支援・医療対応
- 地域包括支援センター・福祉避難所との連携方法
パーソナルBCPで「職員一人ひとりの備え」を可視化する
災害時、施設のBCPだけでは不十分です。**職員ごとの出勤可否や家族状況も含めた「パーソナルBCP」**をつくることで、初動対応の質が変わります。
- 自宅・職場までの経路と通勤手段
- 自身や家族の安全確認ルート
- 非常時に持参すべき物品の整理(予備バッテリー・靴・飲料など)
ワークシート形式で記入し、年1回の更新を習慣化しましょう。
3.日常業務に自然災害BCPの視点を溶け込ませる方法
備蓄・設備の点検をルーチン化する
月1回の定例業務として、以下のBCP視点での点検を実施しましょう。
- 非常食、水、携帯トイレ、簡易照明の期限確認
- 非常用電源や災害掲示板の動作確認
- 避難経路の安全確認と障害物の除去
点検チェックリストと記録簿を整備することで、BCPの信頼性が高まります。
カンファレンスや支援会議で“災害時のケア視点”を持つ
例えば、「○○さんは移動に時間がかかるけど、地震の時どう避難させる?」といった問いを、支援会議や多職種カンファレンスに取り入れると、自然災害への対応力が深まります。
→ ケアの視点とBCPの視点をセットで考えることで、「誰がどう動くか」が具体化されます。
4.介護事業所がBCPをアップデートするPDCAサイクルの回し方
訓練や研修は単発では意味がありません。振り返りと改善(PDCA)を習慣化することが大切です。
訓練後の振り返りと記録をどう活かすか
訓練後には、簡単なふりかえりシートを全職員に配布し、以下を記入してもらいましょう。
- よかった点
- 難しかった点
- 気づいた課題
- 次に向けた提案や改善点
記録はBCP委員会でまとめ、マニュアルや行動計画への反映につなげます。
BCP委員会や災害対策チームで継続的な改善を
施設内にBCP委員会や災害対応チームを設けて、年2回以上のレビュー会議を定例化すると、PDCAが制度的に機能します。
多職種による“クロスレビュー”を取り入れることで、より実践的な視点での見直しが可能です。
5.自然災害に備えるための地域連携と外部研修の活用術
自然災害時は、施設単独での対応には限界があります。地域との連携や外部研修の活用も積極的に行いましょう。
- 地域包括支援センターや消防との合同訓練
- 市区町村の福祉避難所との連絡体制構築
- 近隣施設との協定(災害時の物資提供・人員応援など)
また、外部講師を招いて「BCP専門研修」を実施するのも効果的です。第三者の視点がBCPの盲点に気づかせてくれます。(※当所(ベラガイア17人材開発総合研究所)でも研修を実施しています。)
6.まとめ|介護BCPは「訓練で終わらせない仕組み化」が鍵
介護施設における自然災害BCPは、作って終わりではなく、日々の業務や研修に組み込み、常に改善していく“運用型”でなければ機能しません。
目指すのは…
- 訓練結果を施設内研修に反映する
- パーソナルBCPで個人行動も明確化する
- 点検やカンファレンスにBCP視点を取り入れる
- 委員会で定期的にマニュアルと訓練を見直す
- 地域・外部との連携を積極的に築く
このような取組みが積み重なることで、本当に“動ける介護BCP”が現場に根づいていきます。
■厚労省:介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修(ポータル)https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/douga_00002.html